『はじまりは唐突に』
あれは、まだ僕が上京して間もない時のことでした。
大学へ向かうため電車の座席に座りスマホをいじっていました。
車内は朝の通勤時間ということもあり激混みでした。
大きく電車が揺れました。
カーブを曲がったのかもしれません。
えっ!!
その衝撃で僕の前に立っていた女性が僕の抱えた黒いリュックの上に倒れて来たのです。
彼女の両手は突き出され、壁ドンならぬ『窓ドン』で僕の顔を挟む形になりました。
―――うわっ!近い。近い!近い!
まだ二十代そこそこの会社員らしきその女性は円らな瞳に睫毛が長く鼻筋もすっきりしていてチェリーインクのルージュを引いた唇はぽってりとして何故か半開き。
詰まりは超・美貌。
いやいや、それより僕がど肝を抜かれたのは女性の水色のフリルのシャツの胸元がV字に大きく開いていて
黒のレースに縁取られたブラから白く豊かな谷間が僕の目の前で揺れているのです。
電車の揺れに合わせて。
少し年上のお姉さんーーーー19の田舎者男子には強烈過ぎです。
『これは拷問か?』
フルーティーな香水が薫ってくるし。
マジでヤバい。
でもここまで混んだ電車の中では致し方ないか??
いやいや異常事態だ。
お姉さんのドレスシャツから覗く胸は僕のリュックの上に乗り上げているのだ。
完全に。
今、お姉さんはどんな顔をしているのか?
羞恥で真っ赤になっているのか?
僕は恐る恐るお姉さんの顔を上目使いでチラ見しました。
『自分でヤッテますよねお姉さん?』
うううう。
嘘でしょ?
何かエライ気持ちよさそう。
蕩けた法悦の表情だ。
あああーーーーあれだ!お姉さんはさっきから妙に躰をくねらせている気がしてたけど。
僕の大きなナイロンリュックに自分の乳房を服の上から擦りつけているのだ。
――――これはもう乳首立っているのかな??
黒くて毛先がカールしたセミロングの髪の毛が僕の顔に段々振りかかってくるんだけど。
ああいい匂い。
シャンプーしたてなのかも。
僕の理性が吹っ飛びそうだ。
ヤバい。
もう次の駅で降りよう!そう心に決めた時です。
自分の躰を支えてつっかえ棒にしていた両腕を離し肩にかけたビジネスバックをしっかり持つと何とか向きを変えました。
ああ。
降りるんだ。
自分で離れようとしてたくせにお姉さんの方から去ってゆくと思うと凄く淋しい。
しかし、ひと時の良い思いをさせてくださりありがとうござりまする!
『やっぱり黒でしょ』
やがて次の駅に着き、僕が座っているのと反対側の扉が開くと大勢が吐き出される。
ぎゃああああ
心の中で叫んだか本当に口に出して叫んだのか定かじゃない。
お姉さんはちょっとしゃがんだ態勢で床に落とした定期を拾った。
その瞬間。
タイトスカートの後ろのスリットが大きく割れて黒のショーツが垣間見えたのだ。
薄いベージュのストッキングに包まれたソレ!
白く引き締まった小さなお尻を縁取る細かな黒レースまでバッチリ眼に焼き込まれた。
手を延ばせば触れられる位置にある。
わざとだ!
落とし物なんて普通速攻拾ってしまうものだろう?
そこをモジモジしてお尻を僕の顔付近に突き出して来た。
今日は自主休校だ!
僕はオスになってお姉さんの後について行こうと席をたった。
『九段坂』って何があるんだろーーーーーーま。いっか。