【きっかけ】
既婚者同士の婚外恋愛なんて、もう巷にはあふれ返っていますよね。
今やインターネットで誰とでも簡単に出会える時代、ちょっと遊び心で知らない人と出会って、サクッと愉しむなんて私の周囲にもよくある話でした。
でも見知らぬ人と、たとえ僅かな時間でも会話したり肌を重ねたりする関係になるまでのプロセスって面倒じゃないですか?
その点、ある程度の身元の知れた人というのは初めから警戒心がお互いに少なくてイントロ段階から加速度を増して急接近出来たりするものです。
私の場合もそうでした。
同級生の経営する飲食店に出入りしていて彼と出会いました。
まったく見知らぬ人と思っていたその彼は、じつは同級生だったのです。
お店のマスターに聞かされて初めて知ったのですが、それ以来、何度か顔を合せる機会ができました。
【アクションとリアクション】
彼とは1年に1〜2度顔を合わす程度でした。
しかも毎回同じ店で、他の友人たちと一緒にいる時しか会わなかったのです。
もちろん、当時は付き合うことになろうとは予想だにしていませんでしたから。
ある年、大きな同窓会がありました。
ルックスの良い彼は女子たちの囲みに遭うほど人気者。
彼とツーショットで写真を取りたがる女子の列が出来たほどです。
でも、この時も私はあまり彼に関心も無かったのです。
いつも通り会釈程度の挨拶をして他の友達と歓談していました。
そして同窓会の終わった晩に、彼から携帯にメッセージが届きました。
「今日はお疲れさま。楽しかったですね。また会えるのを楽しみにしています。」という、ごく一般的なお疲れさまメールでした。
同じように、私も社交辞令感たっぷりの内容で返信しておきました。
それから数ヶ月経った初夏のころのことです。
同級生の集ういつもの店で、小規模なパーティーがありました。
其処に彼も来ていたのです。
何度となく見かけてはいた彼のことを、その晩初めて意識して見てしまいました。
端正な顔立ち、鍛え上げた肉体美、頭脳明晰で言動は上品、大企業の研究室に勤める真面目なサラリーマンです。
私は、目の前で見ている彼を、知り得ているプロフィール以上に想像しました。
もしかしたら、この人と付き合うことになるかも?という空想が広がった瞬間でもありました。
その晩は、友達数人でカラオケ店に場所を移して夜中まで遊んで帰りました。
次の日、また彼からメッセージが届きました。
以前の同窓会の後のように、お互いに短くも丁寧な言葉のやり取りがありました。
【関心】
私の、彼に対する関心は日ごとに増していました。
というのも、彼は毎日メッセージを送ってくるようになったからです。
よくまぁ、こんなにも小まめに毎日連絡が出来るものだと、逆に私のほうが少し引き気味な感じさえしました。
特に決まった話題があるわけでもなくて、朝のおはようという挨拶から始まって、今日も一日頑張りましょう的な、私的には最も扱いづらい内容でした。
なぜなら、そんな社交辞令的メッセージ、面白くも何ともないと思いませんか?
正直、暇なの?とさえ感じていました。
ある時、私は日々のマンネリ化したメッセージのやり取りを何とかしたくて、彼に会う決心をしたのです。
「また遊んでくださいね」と送った文字に、彼は「ご飯でも行きましょうか?」と誘ってきました。
あっさりと約束は決まり、夏の晩、二人きりで初めて食事に出掛けました。
【何もない夜】
デートと呼ぶほど親密な仲でもない二人の、初めてのデートは老舗の蕎麦屋さん。
小さなお店の中が人でいっぱいの人気店です。
其処で私たちは同じものを頂きました。
1時間半ほど居たでしょうか、店を出た頃はまだ夜の8時台だったと思います。
正直なところ、私はこの先どうなるのか興味津々でもありました。
彼が、なにを考えているのか……。
既婚女性が、夫以外の男性と二人きりで食事することの意味を自分ではある程度予測して出向いたつもりでした。
彼は2軒目のお店に案内してくれました。
其処はかなり大きな箱のバーでした。
とても雰囲気は良いお店、なのに私たちは堅い話題で、そのギャップに笑ってしまいそうになりました。
何分経っても艶話にもならず、結局この日は終電に間に合うようにお互い駅でバイバイして帰ることに。
【点を線にしたい】
相変わらず彼からは毎日、朝昼晩と連絡が届きました。
その都度返す自分もどうかと思うけれど、真面目に連絡してきてくれる人にスルーも失礼だと思って此方も返す毎日。
ある日、彼を美術展に誘うと興味深げに乗ってきてくれました。
また簡単に2度目のデートの約束が出来てしまいました。
私は彼の真意を確かめたかったのかも知れません。
50過ぎた男が、なんで毎日私にメッセージをよこすのか?なんの発展性もないなら時間の無駄である。
こちらも、それに付き合うほどじつは暇ではないのです。
一度きりのデートなら、いつもの同級生のお店でご飯食べれば済むこと。
二人だけで会う意味を、其処に割く時間の意味を確かめたかった。
美術展を後にした私たちは、少しずつ接近できるようになっていました。
夜のファミレス、ドリンクバーの薄い飲み物を口にしながら、どんな会話をしたのかはよく憶えていない。
けれど、その晩私たちは初めて肌をあわせる関係になってしまったのです。
彼は、ドキドキしたと後になって振り返りました。
同級生に簡単に手出し出来るわけが無いと……。
今まで築いてきた友人関係、その周辺関係までも全てをなくしてしまうかも知れないと思うと、簡単に口説いたり出来なかったと言いました。
わかります。
よく解りますよ。
でも、もうここから先は内緒の仲で行くしかありません。
【気の向くままに末長く】
彼には、重荷にならないように「本気はないよ!」と言ってあります。
こちらにも家族は居るし、家庭を壊す気もありません。
都合の良い時に、お互いのタイミングが合えば、いつまでも仲良くやっていこうというスタンスです。
見知らぬ相手との不倫はしんどいけれど、勝手知りたる同級生だから、もしも不倫の関係が終わったとしても、また普通の友達に戻るだけ。
服を着てお茶するだけの関係にはいつでも戻れますね。