『羨望』
私には、幼稚園生のころから憧れている男の子がいた。
その子は私の家の近くに住んでいて、小さいときはよく一緒に遊んでくれた。
彼はいつもキラキラしていてリーダーシップをとるような子で、対して私は根暗でどちらかというと寡黙な子供だったので、実を言うと、あまりお互い積極的に仲良くするという感じではなかった。
私たちの母親同士がよく話す仲だったようで、必然的にお互いの家に行き来したり、公園で母親同士が世間話をしている間に遊具でそれとなく一緒に遊ぶ、といった具合だったのだ。
彼は活発なタイプであちこち動き回り、私はそんな彼のあとを必死でついていく…。
彼は小さな頃から周囲よりも頭一つ抜きんでて優秀で、幼稚園でのお習字や足し算引き算の授業、お歌や縄跳びやかけっこの時間にも、その輝く才能をいかんなく発揮していて、わたしはそんな周囲とは一味違う、まるで神様に王冠を載せられて生まれてきたかのようなあの子が、私は本当に大好きだった。
『光かがやく子』
両親や祖父母の希望で、私は生まれる前から進学する大学が決まっていた。
両親の卒業した大学に必ず入学できるよう、物心がついた時から何度も諭されて育てられたので、小さいときから心が休まる余裕がなく、いつも急き立てられているようで苦しかったことを今でも覚えている。
生きているってどうしてこんなにしんどいのだろう。
いつになったら生まれる前の場所に帰ることができるのだろう。
でも大丈夫。
だって私の視線の先には、神様に祝福された彼がいるのだから。
私の近くにはいつも彼が―ここではKと呼ぶことにしよう-Kが私のお手本となって、道の先を歩いてくれているのだから。
Kの言うことに従えばいい。
Kの振る舞いを見て学べばいい。
Kはいつも正しい。
大人はみんなそう言っている。
先生も、パパもママも。
「K君みたいにがんばりなさい」「K君みたいになりなさい」って。
私が生まれるおよそ3か月前にはKがもうこの世に存在していて、不安定で混沌として理不尽ばかりまかり通るこのくそまみれの世界に光をともしながら私を待っていてくれた。
それが私にとってどんなに幸運なことなのか…。
『道しるべ』
幼稚園から小学校、中学校、そしてなんと高校まで、私とKは同じクラスで過ごすことになった。
でもそれはここではそんなに珍しいことではない。
他にも何人かそんな子がいた。
小さな箱庭のような町で、私たちは育ったのだ。
高校に進学してからも私たちの間柄は相変わらず代わり映えしていなくて、活発で優秀でみんなから愛されるKと、静かで目立たずどんくさい私のままだった。
母親同士がたまにどこかに出かけるときには一緒について行くけれど、お互いの趣味や性格が噛みあわないから2人きりになると静かな沈黙が流れてしまう。
それでも私は平気だった。
Kのように目の前のことに努力して、Kのように何かに挑戦し続けていれば、きっと私の未来は大丈夫なんだ。
必ずパパとママの期待に応えられる。
そして…、パパとママが届くことのできなかったその先へ行ってみせる。
目の前で鮮烈に輝くKを私の眼球に映しているかぎり、私にはきっとそれができるはずだ。
根拠はないのに、なぜかそんな安心感を私はKから与えられていた。
このころの私には、Kに対する思いが恋愛感情なのか憧れなのかがもう分からなかった。
しかし一つだけ言えることは、私にとってKは絶対的な存在だったのだ。
『レイプ』
高校2年生に上がった春、私はまたもやKと同じクラスだった。
春休み中、毎晩神様にこっそりお願いしていたこともあり、クラス発表がされた瞬間、まるで天にものぼるような気分だった。
17歳の私たちは、たまにポツリと言葉を交わすような仲にはなっていた。
相変わらずKの回りにはいつもたくさんの人がいて、私はいつもひとりぼっち。
時々Kが私のことを見ているような気がしたけれど、本当のことは今でもよくわからない。
なにせこのころの記憶はぼやけてかすれて、よく思い出せないのだ。
ある日、Kの家に突然呼ばれた。
両親が数日旅行に行っているから、数学の課題を一緒に取り組まないかという誘いだった。
私は何の危機感もなかった。
チャイムを鳴らし、玄関口でKに出迎えられ、Kの部屋に2人で入った。
テキストと課題用のノートを開き、何かを話した。
私は大きな声で笑って、彼は静かに微笑んだ。
次の瞬間だった。
Kにいきなり抱きしめられ、気が付いたら床に身体を押し付けられていた。
抗えない力でぎゅっと体を拘束され、大きくて形が綺麗な彼の右手が私の胸の突起をもてあそんでいる。
大声を出そうとおなかに力を入れようとしても、すかすかと空気が漏れて抜けていくだけだった。
彼がどういう目的で私を家に招いたかに気が付くのにはあまりに遅かった。
私の抵抗もむなしく、スカートを引き下げられ、パンツをずり降ろされ、秘部があらわになった。
信じられないことにそこは湿っていて、パンツからは透明な糸が引いていた。
私はとうとう身体に力が入らなくなり、恐怖のあまり脱力してしまった。
Kはローテーブルに置いてあった消しゴムを私のクリトリスにこすりつけ、そのあとその消しゴムを遠くに投げて、私の密壺を音をたてて舐め始めた。
かなり体格差のあるKにがっしりと拘束された私は身動きができず、されるがままだった。
「処女?」と聞いてきたKの顔は、いままで見たこともないような獣じみた顔だった。
「処女だから、、、離して」
私は必死に言葉をひねり出して、どうにかKの支配から逃れようとした。
「あともう二人くるから」
Kはそれだけ言って、私の両腕を拘束し、乳首を口に含んで吸い上げた。
私の股間は彼の大きな膝小僧を押し付けられ、何度も何度もしつこく擦られた。
ぐちゅぐちゅという信じられない音が私の耳に響き渡り、目の前が真っ暗になりかけたその時―。
突然下腹部に経験したことのないような強烈な痛みを感じた。
同時に、Kの興奮した低いうなり声が聞こえる。
私の中に彼が埋まった。
私は今度こそ張り裂けんばかりの悲鳴を上げた。
その瞬間、部屋のドアが開き、Kといつもよくつるんでいる二人の男が、入り口にたっていた。
そのうちの一人が部屋の中に勢いよく入って、床に打ち付けられた私の両腕を力強く拘束したので、Kの両手は私の手から離れ、私の腰をぎゅっとつかみながらゆっくりと前後の運動を繰り返していた。
突然の来訪者のうち、残りの1人が部屋の中に入ってきて、右手にもった卵型のバイブを私のクリトリスに近づけた。
もうだめだった。
なにがなんなのか、全く分からなかった。
ただただ叫び声だけがこだましていた。
スマホの録音開始ボタンの音が遠くで鳴った。