『彼女という転機』
あれはある冬の日のことだった。
通っていた高校から少し遠い公園で、俺はベンチに座りながら当時流行っていた「ハリー・ポッター」の本を読んでいた。
もちろん、俺のいた高校にも読書や自習に使える図書室はあった。
だが、絡まれると厄介な人間が何人もいたので俺は図書室ではなく、わざわざこの公園を利用していた。
誰だって理不尽にブン殴られたりお金を取られたりしたくはないからな。
言い換えれば、俺のいた高校は治安があまりよろしくなかった。
ゆえに例え校外であっても、俺のように一人で行動したがる生徒はそう多くなかった。
そうしている生徒はたいていいじめで孤立しているか、何か事情のある人間だ。
そしてそういう者はたいてい放置される。
教員たちはやんちゃ坊主を追いかけるので精一杯だったのだ。
しかし、俺はそれは間違っていると思っていた。
とはいえ一介の男子高校生にこれを変える力などない。
だから俺は「ハリー・ポッター」のようなファンタジーにハマっていたのかもしれない。
だが現実は非情で、いくら空想の世界に逃げてもコミュ障、童貞、帰宅部、成績下位、運動音痴という状況は変わることはなかった。
だが、そんな俺にも転機が訪れた。
それはアオイ(仮名)との出会いだ。
彼女は俺が座っていた公園のベンチから少し離れた場所の木に寄りかかって、一人でずっとケータイをいじっていた。
無論、この地域において女子がそんなことをするのは自殺行為に等しい。
普段の俺は女子どころか、同じ男子に話しかける勇気さえない生徒だったが、この時ばかりはどうにかして話しかけなければならないと思っていた。
「あのぅ……」
俺はなんとか声を絞り出した。
アオイはビクッとしながら振り向いた。
まあ、今思えば当然の反応である。
『ハードな帰宅部』
俺は持てる全ての力を使って自分が敵でないことを説明した。
もしかするとそれはアオイには滑稽にすら見えたかもしれない。
だが、これでアオイは心を開いてくれた。
俺に本当に危害を加える気がないと分かると、さっきまで一人で黙々とケータイをいじっていたとは思えないくらい饒舌に自分の置かれた状況について話してくれた。
まず、彼女は俺と同じ帰宅部だった。
だが元々入っていた運動部を抜け出してきたような俺とは違い、彼女には帰宅部であるれっきとした理由があった。
それは「父親の経営する店を手伝わなくてはならない」ということだ。
実際に行って見てみると、それはかなり古くて小さな個人商店だった。
昭和の田舎によくあったタイプの、1Fが店舗で2Fが自宅といった作りのアレだ。
もちろん、それは当時から見ても完全に時代遅れ。
しかも活気がないどころか外から見て営業しているのかどうかさえ分からないような状況であり、聞けば客はほとんどが常連の爺さん婆さんかその孫なのだという。
彼女によれば、店番はかなり暇らしい。
1日に1人も客が来ない日もあるのだとか。
それを聞いて俺はすぐさま「じゃあ親父だけでも店は十分回るじゃないか」と言ってしまった。
そして思ったことをすぐに言葉に出してしまう自分の性格を恥じた。
……そうはいかない事情があることくらい、すぐに分かることなのに。
そして実際にその通りだった。
アオイの親父さんは酒、タバコ、ギャンブル(競馬)に溺れている「典型的な昭和のダメ人間」だった。
ゆえに見た目通りその店は「営業時間内でも機能するかどうかは(アオイがいなければ)運次第」というような状況だったし、当然店は毎月赤字続き。
生活は看護師の母親が支えているのだという。
その人生のハードさに俺は絶句した。
親のやることのツケが、アオイから「友達と一緒に遊ぶ」だとか「部活動に打ち込む」だとか「恋愛をする」などという当たり前の青春を奪っていたのだ。
最近はタバコの煙がひどい店内にあまりいたくないからとこうしてサボっているらしいが、それでも限界はあるらしい。
俺はアオイに協力することにした。
困っている女子を前に「はいそうですか、さようなら」だなんて男として言うわけにはいかない。
それに俺は自分の力で現実を少しでも良いものにする経験がしたかったのだ。
『お店を救うために』
俺は最初の数か月は、学業そっちのけで店を立て直す方法を考えた。
またビジネスや建築、デザインなどの本もたくさん読んだ。
だが、残念ながらそれはうまくいかなかった。
店は如何ともしがたい悪循環にハマっていたのだ。
・流行らないからお金がない
・お金がないからリフォームなどの改善策を打てない
・改善策が打てないから将来に希望が持てない
・将来に希望が持てないからやる気も出ない
・やる気がでないから店が機能しない
・機能しないから流行らない
俺はいっそ店を潰してしまった方がいいんじゃないかとすら思った。
だが、戦前から続いてきた店だとか常連さんに愛されているとか親父さんの酒・ギャンブルの費用は店のカネから出ているだとか潰せない理由はいくつもあった。
そこで俺たちは親父さんにはバックに下がっていてもらい、お金をほとんどかけない形で内装を改善することにした。
ただし唯一照明だけはLEDの明るくて低コストなやつに替えた。
外から見て明らかに「営業中である」という雰囲気を出すためだ。
加えて店のブログも作り、広報にも力を入れた。
ところがこれもうまくいかなかった。
アオイのセンスを最大限に生かした内装は常連の爺さん婆さんに響かなかったし、ブログは集客には繋がらなかった。
お客さんは「ちょっときれいになったね」だとか「若い男女がいるといいのう」などと言ってくれたが、本当にそれだけだった。
売り上げはむしろ少し下がった。
俺は頭を抱えた。
アオイはこれ以上俺をこんなことに巻き込めないよと言った。
だが、俺にアオイを見捨てるという選択肢は無かった。
とはいえ自分たちができることはやった。
いったいこの後どうすれば……
俺は思い切ってビジネスに強そうな大人に相談することにした。
とはいえ、高校の関係者に下手に相談すると店に変な奴が来たり、お金をタカられたりする可能性もある。
俺はSNSを通じ、ダメ元で某有名実業家に相談した。
すると、幸運なことに返事が返ってきた。
「ビジネスは99%失敗します。特に最初に始めたビジネスはね」
目からウロコだった。
なんとなく、こういう人たちは次から次へとビジネスを成功させているイメージがあったからだ。
さらに、その人は店の経営に必要な様々なことを教えてくれた。
おそらく数千字くらいはある長文だったと思う。
有用な本やサイトへのリンクもいくつも貼られていた。
そして俺は、店を経営するにあたりとんでもなく無知だったことを知った。
仕入れは? 帳簿は? 税務は? 取扱品目や営業許可は?
……危なかった。
俺たちはアオイの特製団子を売る気でいた。
だがそれにはHACCPに沿った衛生管理や営業許可などが必要で、それをすっぽかすと違法になってしまうのだ。
俺は考え方を変え、ビジネスに必要なあらゆる勉強を本格的にすることにした。
……学生の本分である勉強も進めながら。
仕事で何かを勉強する時、その基礎になるのが学校で学ぶ科目であると身をもって分かったからだ。
例えば何かの法律の条文を読む時、国語力はもちろん、数学力からくる論理力がなければちゃんと理解することは難しい。
また、多くの資格取得や講習などにおいて「高校卒業」という資格は大きな助けになることも分かった。
結局真面目に勉強することは自分自身を救うのだ。
『アオイとの初めて』
そうして努力して数年後。
結局、その店は潰れてしまった。
努力はしたものの、新規顧客の開拓がうまくいかなかったのだ。
それにアオイの母親は、これ以上アオイの父親が一生懸命な高校生2人に乗っかって楽をすることを良しとしなかった。
そしてアオイの父親をとある建設会社にブチ込んだ。
……あまりうまくは行っていなかったが。
とはいえ、こういうことがあったからか俺とアオイとの関係は親公認のものとなった。
また、俺とアオイの関係はもはや単なる「ビジネスパートナー」や「恋人」で片づけられるものではなくなっていた。
股を開かせるために「お前を守る」だとか「お前を幸せにする」という男はいくらでもいたが、こんなに長期間一生懸命になってくれる人が実在するだなんて前のアオイには想像できなかったらしい。
無論、俺にとっての「初めて」の相手はアオイとなった。
それはアオイにとっても同じだったようだ。
むしろそのまま結婚したいとまで言っていた。
そして一緒に幸せな家庭を作ろうと。
まあそれにはまだ早いにせよ、俺はアオイと長い前戯を楽しみ、きちんとゴムをつけ、ローションをしっかり使ってアオイの中に挿入した。
アオイの膣は、優しく、そして柔らかく俺のペニスを包み込んだ。
そしてアオイが何度も感じられるよう、固くなったペニスでゆっくり、優しくピストン運動をした。
「んんんっ……あっ……」
膣の動きから、そして彼女の様子から、アオイが楽しみ、そして絶頂に至ってくれたことが分かった。
同時に俺も射精した。
その後快楽と疲労に溺れながらも、俺は次の一手を考えていた。
次もまた失敗するかもしれない。
でも、全力でやって失敗するということには大きな意味がある。
そして、それはアオイの幸せを守るのに大きな助けになるはずだ……
現実には、思っただけで何でも変えられる魔法はないのだから。