異性の兄弟との関係は難しいとはよく聞きますけど、それは同性に関しても同じではないかと最近思います。
僕には、昔から優秀な兄がいました。
兄は勉強もスポーツも得意で、何をやらせても優秀で顔立ちも整っている。
それに比べて僕は他人に誇れることなど何もなく、身長だけは兄よりも大きかったものの、そのせいでよく木偶の坊と馬鹿にされていました。
それでも兄は「お前は僕よりずっとすごいよ」と言ってくれていたものの、それだけでは自信などつくはずもなく鬱屈した日々を送っていました。
そんなある日のことです。
その日は土曜日だったのですが、僕は休日ということもあり近所の古本屋をはしごして目当ての漫画を探す予定でした。
しかし、生憎その日は朝から天気が怪しくなってきており、本格的に降り出す前にと予定を早めに切り上げて帰ってきたのです。
普通なら帰ってきたときに大きな声でただいまといえばよかったものの、その日は兄は休日なのでテストのために勉強すると言っていたため邪魔にならないように静かに家に入りました。
両親は共働きで、家には兄と僕だけです。
帰宅し、いったん荷物を置いてこようと二回の自分の部屋に向かった僕。
兄の部屋は、僕の部屋の向かいでした。
そして、兄の邪魔にならないようにと静かに部屋に入ろうとした僕は、兄の部屋からくぐもったような声が聞こえるのに気が付きました。
とはいえ、その時はすぐに兄の声だとわかったので何かあったのか、と心配になったのですがよく聞くとおかしい。
だって、吐息の混じったその声はまるで自分を慰めているような声ではありませんか。
いや、兄だってそういう気持ちはわくのだろう。
詮索するのも野暮だ、と最初は思ったのですが、あの完璧な兄が一体どういったものに興奮しているのかが妙に気になってしまった僕。
恐る恐る静かに兄の部屋のドアノブに手をかけると、なんと鍵をかけ忘れているではありませんか。
そして、僕は静かに中を覗き見ました。
そこには、兄がいました。
いや、それは当然なんですが、その兄の格好は僕が今までの人生で見たこともないものでした。
兄はまるでマンガか何かに出てくるような女子高生の制服を着て、女性もののパンツとブラまでつけて女装してオナニーをしていたのです。
一瞬、自分の見ているものが夢か錯覚かと思った僕は思わず「えっ」と声を漏らしてしまいました。
兄はその声を聞き逃しませんでした。
血の気が引いた顔で扉の方を見て、外にいる僕の顔を認識する兄。
こんな状況、どんな態度でいればいいのかなんて今でも分かりません。
それでも当時の僕は、逃げる方がより相手を傷つけてしまうと思い、恐る恐る部屋の中に入りました。
気まずい沈黙がしばし流れた後、兄は「…気持ち悪いもの見せて、ごめん」と僕に謝ります。
その時の兄の顔は真っ青で、そのこの世の終わりのような顔を見た瞬間、僕の中に今まで感じたことのない感情が生まれました。
それは、愛しさに近いのでしょうか。
完璧だと思っていた兄、欠点がなく品行方正な彼が見せるあまりに正反対な姿。
それは、いままで十年以上兄に持っていた劣等感を溶かし、兄への愛情を生み出してくれたように思えます。
僕はすぐに兄の肩を抱くと、「そんなことはない、今の兄はどんな女性よりきれいだ」とまるで口説いているかのようなことを言ってしまいました。
今になって思えば、肉親の、それも兄に対して言うことではなかったのかもしれません。
しかしながら兄も、先ほどまで性的興奮の中にいた身。
まして軽蔑されると思っていた弟に逆に優しくされて、すっかりスイッチが入ってしまったのでしょう。
「それじゃあ…、もう少し見てみるか?」
僕はその兄の提案を、首が壊れんばかりに縦に振って受け入れました。
兄の性器は僕よりもずっと小さく、毛もあまり生えてはいませんでした。
尻の穴はローションか何かで濡れており、兄が男性器ではなく女性としての快楽を得ようとしていたことは誰の目から見ても明白です。
テカテカと輝くその穴はあまりにきれいで、僕は気が付いたらそこに指を這わせていました。
兄は最初こそやんわりと抵抗するものの、僕の手を受け入れ快感を拾っていきます。
数秒化、数十秒かの愛撫ののちに兄の体は震え、小さな男性器の先から少しの精液が漏れました。
自分の手で、兄が絶頂してしまった。
その事実に、僕の中の暗い何かがむくむくと湧き上がってくるのが分かりました。
そして、絶頂の余韻に浸る兄を押し倒すと、彼の尻の穴に自身の男性器を挿し入れました。
兄は、最初こそそれに驚いていたように思ったものの、一切の抵抗はしませんでした。
それどころか、今考えてもまるでこの時を待ち望んでいたかのように恍惚としていたのを覚えています。
そこからは、一心不乱に腰を振っていたようにおもいます。
もっとも、兄の痴態でこちらも限界が近く、一分も持たなかったんですが。
兄の中に精液をすべてぶちまけて冷静になった時、僕は自身の血の気が引くのを感じました。
しかし、とんでもないことをしたと兄の顔を見てみると、まるで最愛の恋人に抱かれているかのように幸せそうで、なぜだかとてもうれしくなりました。
後で聞いた話ですが、兄は五年以上前から自身が女性に興奮しないこと、実の弟である僕を性の対象に見ていることに悩んでいたそうです。
もっとも、誰にも相談できることでもなかったので、そのことは墓まで持って行くつもりだったようですが。
あの後、両親が返ってくる前に急いでシーツやら服やらを洗濯に入れた僕たちは、久しぶりに二人で風呂に入りました。
その中で、兄が昔僕に言った「僕なんかよりずっとすごい」の意味も聞きました。
兄にとっては、自身よりも大柄で体格が良く、性器も大きかった僕の体は自身の理想だったそうです。
だからこそ、最初はあこがれを抱き、今では劣情まで抱くことになったと。
その言葉を聞いた僕は兄を抱きしめ、兄は何も言わずに僕の手を握ってくれていました。
あれから数年が経ち、僕は今では親元を離れて暮らしています。
そして、兄も今でも一緒です。
普通の兄弟ではなくなったけれど、それでも僕は兄が兄でよかったのだと思いました。