『スパルタ教育と兄妹』
俺は子供の頃、福岡のとある田園地帯に住んでいた。
家はそこそこ駅に近かったが、周りには駐車場と田んぼと民家だけというお手本のような田舎だ。
そして、それは今も大きくは変わっていない。
そんな環境だったので、母は俺に勉強するよう強く、しつこく、威圧的に命令した。
将来は大阪か東京に出て、活躍して名を上げろといつも言っていたものだ。
学校から帰ってくると学校の宿題とは別に、毎日のように問題集やドリルをやらされていたのでうんざりだった。
一方、俺には4つ歳の離れた妹がいたが、妹は俺のように勉強はしなくて良かった。
代わりに料理や家事などをよく手伝わされてたっけな。
りんごや大根をきれいにむけないとキレられるなどこちらもこちらで大変そうだったのを覚えている。
『隠されたお宝ビデオ』
そんなスパルタ教育バンザイの家庭だったので、俺たちは常にストレスが溜まっていた。
そんな俺の数少ないストレス発散手段の1つは、ゲーム。
具体的に言えば当時大ベストセラーだったスーパーファミコンだ。
無論、母はこれをアメとムチとして大いに活用した。
テストや模試で良い成績を取れば新しいゲームソフトを買ったりゲームをやる時間を与えたりする一方、成績が下がったり、プレイ時間をオーバーしたりすればすぐにカセットを隠したり、電源コード(ACアダプター)を隠したりした。
今のゲーム機と違い、当時の据え置きゲーム機に充電機能などはなく、またカセットを差し込まなければ何のゲームもプレイできない。
つまり思い通りにならないことがあると、母は物理的にゲームをプレイできなくしたのだ。
そして俺が小5くらいにもなると母に反抗することも増え、母が隠したゲームのカセットや電源コードを探すことも増えた。
しかしそんないたちごっこをしていたある日、俺は妙なビデオテープを発掘してしまった。
残念ながら具体的なタイトルまでは覚えていない。
しかしそのケースにはおっぱいやアソコがあらわになった女性の画像がたくさんあったうえ、隅っこには「3回以上再生したら警察に通報します」というようなことが書いてあったと思う。
今思えば、これは何のことないただのAVの演出だ。
しかし、何も知らなかった当時の俺にとっては衝撃だった。
どうして自宅の布団の間からこんな警察に通報されるようなものが出てくるのか?
そもそもこのビデオの中身は何なのか?
俺はそのビデオを手に取り、しばらく固まった。
そして俺は、警察の目につかないよう押し入れのもっと奥にそれを隠すことにした。
『妹がお医者さんごっこを見てしまい……』
ある午後のこと。
母が何かの用事で2時間くらい家を空けることになったので、俺は心の中で狂喜乱舞した。
あのオニババがカセットを隠した場所は分かっている。
これで奴がいない間はのびのびと「トルネコの大冒険」のゲームができる、と。
一方妹はゲームではなくマンガで母といたちごっこをしていたが、母の隠し場所を見破ることができるくらいにはまだ成熟していなかった。
よって母が出かけた後もリビング、トイレ、キッチン、物置などいろいろな場所を探し回っていた。
しかし当時の俺に、妹を手伝ってやるという発想はなかった。
別に仲が悪かったわけではないが、何せゲームができる時間は10分でも20分でも貴重。
俺は妹に構うことなく、30分くらいはゲームに熱中していたと思う。
ところがゲーム内で主人公がドラゴンに囲まれて派手にやられてしまったところで俺はあのビデオのことを思い出した。
あのビデオ、いったい中身は何なんだ……?
そもそもあれは誰が何のためにこの家に持ってきたんだ……?
俺はゲームを止め、謎のビデオテープをビデオデッキに挿入した。
すると若くてキレイな裸の女性が様々な角度から写されるムービーが始まり、次いでお医者さんっぽい格好をした人がそのお姉さんの大事なところを検査するというようなお話が始まった。
当然、小5のクソガキには刺激の強すぎるシロモノである。
しかもあろうことか、そこに妹がやってきてしまった。
妹は他のどこにもマンガはなかったから、あるとしたらここだけだと思ったなどと言っていたが、俺は慌てて部屋の戸を締めようとした。
だが妹は身体を乗り出して無理矢理突破してきた……!
妹を止められないと分かると、俺は次にビデオを止めようとした。
だが、それも必死な形相の妹に阻止された。
妹はどうやら俺がマンガを隠すのに協力していると思ったらしい。
だが、現実はそうではなかった。
妹の目の前には、お尻と大事なところを大胆に向けるお姉さんの姿が……!
「オーーーウ!」
「ノーーー!」
俺は叫んだ。
当時の俺にエロの知識なんてなかったが、たぶん幼い女の子が見るべきものでないだろうということくらいは知っていた。
俺は妹に、そして母にどうこれを説明しようか考えた。
しかし、誰が何のために持ってきたのか分からない以上、まともな説明が思いつかなかった。
一方、これを見た妹の反応は意外なものだった。
「これ、夜にお父さんが見てたよ?」
「えっ」
「私のも見る?」
当時の妹はピュア過ぎた。
キャラクターもののパンツを脱ぐとビデオのお姉さんのように大事なところを開いて見せたうえ、母の使っていた手鏡を持ってくるよう俺に頼んだ。
どうやら自分でもそれを見てみたかったらしい。
そして妹が自分のモノを見ていると……
「これから究極の治療を始めます」
ビデオの中で竿がビンッビンにおっ勃った医者が、お姉さんに挿入を始めた。
パンッパンッと激しくピストンをする2人。
「あんっ……」「イクっ……」と声を漏らすお姉さん。
俺はビデオを止め、再びゲーム機をつないで「ヨッシーアイランド」を始めた。
当時の俺たちは、えっちでいけないものを見たというよりは何かこう、よくできたホラー映画を見た後のような反応をしていたように思う。
そんなことがあってから俺はそのビデオを庭の隅に埋めたが、ある時妹がその存在を漏らしたのだろうか。
結局そのことで俺ではなく、父が母にこっぴどくシバかれることとなった。
DVやら家庭内暴力やらそんな概念などほとんど浸透していない時代なので、哀れ父はボッコボコのサンドバッグ状態に。
なお、妹とはあれ以来あのビデオに関する話をしたことはほとんどない。