・『序章』
あの日、ぼくはまだ知らなかった。
毎晩、床に入ると、とたんに下半身にこみあげてくる、このむず痒くなるような衝動が何であるかを…。
きっかけは些細なことだったのだと思うが、今となってはよく覚えていないし、思い出す気にもなれない。
そんなことよりも、もっと夢中になれること、精神を没頭できることがあるじゃないか。
・『その夜』
そう、あれは中学校にあがって間もない、春の夜のこと。
思春期特有の成長痛に見舞われ、横になるだけでもイヤな痛みと違和感が付きまとう。
いや、違和感といえば、本当はもっと別の場所にあったのに、無自覚的にごまかそうとしていただけなのかもしれない。
それというのも、ここ最近、夜になると下半身のあたりに妙な感覚が走り、気になって寝つきが悪いのだ。
妙な感覚、否、むしろそれは「疼き」と表現した方が良いかもしれない。
夜ごとに襲い来る未知なる感覚に耐えがたいものを感じた僕は、ついに新たな扉を開ける決心をする。
決して誰が教えてくれたわけではないけれど、そうすべきなのだと本能が察知していたのだ。
・『こすりつけてみたら…』
布団の中で身体を横たえながら、僕はズボンとパンツを膝のあたりまで下す。
そうして、最近急に大きくなったように感じる右掌で、「それ」をなでてみる。
「それ」はすでに猛り狂ったようにパンパンに肥大していて、僕の掌がこすれた拍子に、狂おしいほど強く、そしてカタく反り返る。
僕は試みに、「それ」を掛布団でやさしく包み込んでみる。
右掌でこすれた時とは違い、ザラリとした繊維のこすれる感触が、さらなる刺激を増幅していく。
こうなると、もう本能の赴くままに任せるしかない。
僕は腰を前後に動かし、「それ」が布団の生地とこすれる感触を堪能する。
徐々に加速されていく、腰の動き…。
「それ」が激しくこすれるほどに、これまでに味わったことのない興奮が、連続的にこみあげてくる。
僕の動きはますます煽情的になり、息遣いも激しくなっていく…。
ヤバイっ、そう思いながら、僕は音が漏れないよう必死で息を押し殺そうと意識を集中させる。
・『こすってみたら…』
しばらくその行為に没頭していると、なぜかだんだんと刺激が弱くなっていることに気づく。
どうやら、激しく動いたことによって滲み出した僕の汗が、「それ」を包んでいる掛布団のカバーにしみこんで、滑りが悪くなってしまったらしい。
僕は仕方なく「それ」を掛布団から引き離し、しばらく仰向けに寝そべりながら、まだまだおさまりそうにない勃起状態を持て余すように、両手でしっかりと握り込む。
汗で蒸れた「それ」の先端から、今度は何やらヌメヌメした液体が出てきていることを発見したが、それが何であるのかは知らない。
そのヌメヌメした液体は、やがて亀頭を伝い、やさしく包んでいる僕の右手指の間へと徐々に浸透していく。
僕は握り込んだ状態を維持しながら、右手を少し動かしてみると、思いのほかヌルっとした感触とともにスムーズな動きを演じるではないか。
しかも、何という心地良さだろう。
はたと気づけば、僕の右手は、もはや理性とか自制とか、そういったものの及ばぬところで、狂ったように「それ」をシゴき続けている。
クチュクチュと、おそらく僕にしか聞き取れないようなごく小さな音を立てながら、何ともいやらしく「それ」を刺激していく。
生まれて初めての言い知れぬ快感に悶えるようにしながら、その単純な動きに没入する。
一瞬、僕は身体の奥から何かが一気にこみあげてくるような感覚に包まれる。
それを自覚するや否や、「それ」は勢いよく未知なる「何か」を放出し、これまで経験したことのない最強の快感が、僕の先進を駆け巡る。
実に、ほんの数秒の出来事だ。
その「何か」が何であるか、僕は後になって知ることになる。
だが、その夜、暗闇の中で事後の放心状態に浸っていた僕には、その正体を突き止めようとか、そういった考えはみじんも起こらず、ただひたすら、あまりの喜びと快感に惑溺するのみだった。
・『我が人生、この右手とともに‼』
あの夜以来、僕は自分の右手がいとおしくて仕方がなくなった。
もちろん、左手も時々試してはみたが、やはりあの夜のインパクトが強すぎて、どうしても右手にこだわってしまうのだ。
これからも永劫、よろしくやっていこうじゃないか、親愛なる我が「相棒」よ。
もちろん、我が麗しの「愛棒」とともに。