彼女の周りには、いつも友人たちがいた。
楽しそうな話に花を咲かせ、数か月後にはやってくる大学受験さえも楽しもうとするような明るさがあった。
当時大学1年生だった僕は、そんな彼女たちに英語を教える塾の講師のアルバイトをしていた。
ただ、彼女が男子生徒と話しているのを見たことがなかった。
涼しげな瞳に整った顔立ちの彼女に、恋人はいなかった。
少し背の低い彼女の名前は、ユカリといった。
僕はユカリの成績に不安があった。
彼女の目指す大学は、全国的に見てもハイレベルな地方国立大学だった。
入試では英語の配点が高いにもかかわらず、彼女はその英語が苦手だったのである。
ユカリも自分の英語に自信がなかったようで、いつも授業が終わると教室に一人残って、僕を質問攻めにした。
僕は僕で、その健気な姿勢に応えようと必死だったし、夜遅くまでかわいらしい女子高校生と二人でいられることに若干のよこしまな気持ちを抱いたりもしていた。
……とはいえ、彼女にそんな素振りは一切見せないようにはしていたが。
そんな生活を夏から秋、冬へと続け、ついに彼女の受験も終わった。
合格発表当日、彼女は塾で待っていた僕のもとへやってきて、今まで見たこともないような笑顔でこう告げた。
「先生、受かったよ!」
そのまま彼女は、椅子に座っていた僕に飛び込んできた。
僕は少し後ろによろけながら、彼女を受け止めた。
喜びのあまり涙さえ浮かべていた彼女は、そのまま僕に抱きつく。
膝の上に向かい合わせに乗った彼女の胸が、僕の顔に密着する。
身長のわりに大きな胸は、制服の上からでも柔らかさと温かさをもって僕を包み込んだ。
……と、僕は我に返った。
周りに講師仲間も生徒もいないとはいえ、こんなことをしていてはいけない。
第一、僕の下半身は既に冷静さを失おうとしてしまっていた。
僕はあとわずかだけ残っていた理性をふるいたたせて、改めて「おめでとう」と言って、彼女を下ろした。
すると、彼女は改めて僕に向きなおって、口を開いた。
「再来週にはもう大学の近くに引っ越す予定なんだ」
「そっか、早いね」
平然と答えたつもりだったが、僕の心は揺れていた。
一つ年下の彼女を、僕は既に単なる教え子としてではなく、一人の女性として見始めていたのかもしれない。
そしてそれは、どうやら彼女も同じだったらしい。
「先生、最後にデートしてほしいです」
「デート?」
「うん、二人で勉強以外でお話ししたり遊んだりしたい」
彼女は大学合格をもって退塾する。
もう講師と生徒の関係など気にする必要はない。
僕は二つ返事で承諾した。
「先生、じゃなくて、はーくんって呼んでもいい?」
「いいよ」
デート当日。
春風が吹く、よく晴れた日曜日だった。
僕たちは水族館に出かけて、思う存分デートを楽しんだ。
しかし、本当の楽しみはその後にあった。
「はーくん、大人のデートって出かけるだけじゃないんでしょ?」
「大人のデート?」
「うん、高校生までとは違って、大学生になったら、もっと楽しいデートができるんでしょ?」
彼女が何を言っているのかよくわからなかった。
その様子が彼女にも伝わったのだろう、少しはずかしそうな顔をしながら、彼女は言葉を継いだ。
「ホテル、行きたい」
僕には経験がなかった。
付き合ったことのある女の子はいても、最後までしたことがなかったのだ。
しかし、そんなことを言えるはずはあるまい。
男らしくしなければ。
「ああ、ホテルね。行こうか」
当然、ラブホテルなど行ったことがなかった。
しかし、かろうじて知っているホテルがあったので、そこへ入っていった。
部屋に着くと、彼女は豹変した。
「はーくん、イルカショー見てるときに私が手をつないだら、たっちゃってたでしょ」
「そんなことないよ」
「隠してもだめだよ。私見てたんだから」
そう言いながら、シャワーも浴びずに彼女は僕をベッドに引っ張った。
「私、男の人の裸って見たことないの。見せてほしいな」
僕が少し躊躇していると、彼女は僕のベルトに手を掛けた。
「見てもいい?」
「じゃあ、僕も脱がすよ」
「いいよ」
徐々に姿を見せ始めた、彼女の白い胸。
なめらかな肌の太もも。
ひんやりと冷たい、弾力のあるおしり。
そのすべてが、僕の目に次々に飛び込んできた。
下着のホックを外すと、想像以上に膨らんでいた彼女の胸の先端に、小さくやわらかな突起があった。
僕は指で触れてみる。
「はーくん、その触り方ちょっとえっちじゃない?」
「そうかな?」
彼女は露わになった下半身を手でさすりはじめた。
今までに感じたことのない快感が脳でしびれ始める。
このままでは、彼女の中に入れる前に終わってしまう、と気づき、彼女の手をそっとどかすと、既に一糸まとわぬ姿になっていた彼女をベッドに横たえた。
彼女は囁いた。
「私、これが初めてなの。いろいろ調べて、知識は覚えたけど、したことないの。だから……、やさしくして」
とろけるようなその声に誘われるように、僕はゆっくりと彼女の体の中へ入っていった。
ぬるぬるとした愛液が、僕の一番敏感な部分を包み込む。
彼女が受け入れるのを確認して、今度は前後に動き始めた。
彼女が、少し表情をゆがめて、しかし「気持ちいい」と呟く。
僕はもう、声など出す余裕はなかった。
ただ体全体を駆け巡る悦びに浸っていた。
やがて僕の限界を迎えた。
「いってもいい?」
「私、もう2回ぐらいいっちゃったよ」
「いくよ……」
瞬間、僕の頭の中が真っ白になった。
その感覚を、今も忘れることができない。
そして彼女の中から僕のそれを引き抜くと、ベッドにだらりと真っ白な液体が流れ出た。
「ごめん、ゴム付けるの忘れてた……」
「知ってる。でも大丈夫だよ。安全日だから」
安全日などない、ということを僕が知ったのは、それから随分後のことだった。