親戚の紹介でお見合い結婚したものの、互いにセックスができずに数年が過ぎていました。
肌を合わせることができないのに、子供は欲しい。
そんな私達が選択したのは人工授精による妊娠でした。
■夫との出会い
親戚の伯母の紹介で、お見合いすることになったのは28歳の時でした。
30歳を目前にして、まだ彼氏もいない私にじれったさを感じた母が伯母にお願いしたのかもしれません。
私自身も、友達が次々と結婚してゆく中で焦りを感じていました。
けれども、私には悩みがありました。
小学生の性教育のせいか、セックスに対して嫌悪感を持ってしまっていたのです。
高校時代から何人もの男性とお付き合いしましたが、いつもキス止まり。
セックスをしたがっている気配を相手に感じたら、もう無理で、そのまま別れてしまうばかりでした。
だから、伯母からお見合いの話を持ってこられた時は戸惑いました。
お見合いは、今までの恋愛とは違って、簡単には別れられないからです。
お見合いというのは互いに結婚を前提とするものなので、話が進みだしてから、やっぱり嫌だから別れますでは済まないだろうと思って、お見合い話は断るつもりでいました。
それでも、どんな相手なのか気にはなります。
とりあえず写真だけでも・・・と思って見せてもらうと、なぜか私はこの人と結婚すると思ってしまったのです。
その衝動に勝てなかった私は、男性と会うことにしました。
男性は女性慣れしていないようでした。
女性とまともにお付き合いしたことがないのは見てすぐにわかりました。
会話も途切れがち、私が話しかけなければ黙りこんだままです。
でも、とても誠実そうで、笑顔がとても優しい人だったので、この人と結婚しようようと思いました。
何度かデートをして、ちょうど5回目のデートの帰りにプロポーズされて婚約に至りました。
■お互いに好意はあるのだけれど
婚約してからは、結婚式の準備で大忙しでした。
会場選びから衣装合わせ、披露宴に呼ぶ人数調整。
考えるのも大変なくらいでしたが、その忙しさがかえって夫との仲を深めていきました。
2人で話し合うことで、なんでも話せる関係になっていきました。
そして結婚式を終えて、新婚旅行に行きましたが、初夜はありませんでした。
お互いに「今日は疲れたから寝ようね」ということになって、結局、新婚旅行が終わるまで肌を合わせることはありませんでした。
そして、新居に住むようになってからも、お互いにセックスのことに触れることはありませんでした。
私がセックスに対して嫌悪感があるのと同じように、彼は彼で女性との交わりでは射精できないでいたのです。
私にとっては好都合の相手でした。
セックスを求められたらどうしようと思っていましたから。
お互いにセックスが苦手だとわかって、安心感から心の距離は近くなってゆきましたが、問題は子供をどうするか、でした。
■兄の子供を預かることになり芽生えた母性本能
セックスができないながらも、結婚の最終形は子供だと思っていたので、お互いに悩みました。
何度も話し合いました。
でも、どうしてもセックスができない。
これは気持ちの問題だからどうしようもありませんでした。
もう子供のことは諦めて2人で仲良く暮らしていこうかと思った時に、最近子供ができたばかりの兄から電話がありました。
義姉が入院することになって子供が見れないからしばらく預かってほしいというのです。
義姉には両親がおらず姉夫婦だけなので負担はかけられない。
かといって、私の実家も公営団地なので赤ちゃんの泣き声は困るということで、私達夫婦に任せられたのです。
いきなり任せられても育児経験のない私達には乳児をどう扱っていいのかもわかりません。
まだ首も座っていないのですから。
それでも、既婚者の友達に育児の仕方を教えてもらいながら過ごしていると、だんだん兄の子が愛しく思えてきて、夫と二人で我が子のようにお世話しました。
この可愛さは、今まで感じたこともない感情でした。
手離したくない。
心から思いましたが、義姉の退院とともに別れが来て、その日は夫と涙しました。
■やっぱり子供が欲しい!
兄の子と別れてから、しばらく無気力な日々が続きました。
忘れようと思っても、兄の子を抱きしめた時の感触が手から離れません。
頬を撫でた時に見せる笑顔を思い出すと、どうしようもなく愛しさが込み上げてきて堪りませんでした。
私は、セックスしなくても子供ができる方法をインターネットで検索し始めました。
体外受精がまず頭にあったので、検索をかけると、料金がハンパな金額ではなく、すぐに諦めました。
それでも他に方法があるかもしれないと思って調べ続けた結果、ようやく人工授精に辿り着いたのです。
人工授精は1回数万円の金額。
これならいけると思いました。
家の近辺にはまだ不妊治療をしている婦人科はなくて、最寄駅から1時間くらいかかる駅の近くにある不妊専門医にお願いしました。
私達夫婦は精神的にセックスができないだけで体に問題はなかったので、すぐに妊娠することができました。
■人工授精で子供を授かった罪悪感
ありがたく子供を授かることはできましたが、なぜか気持ちが晴れませんでした。
それは、不妊症でもないのに人工授精という手段で子供を授かったことに対する罪悪感からでした。
でも、そんな気持ちを理解してくれた医師は慰めてくれました。
「子供が授からないのは不妊症の人ばかりではありませんよ。僕は不妊症の人を病気だとは思っていませんが、もし不妊症の人が病気だとするなら、セックスができないご夫婦もまた病気なのです。あなた達は病気を克服して立派に子供を授かったのですから気に病むことはないですよ」
私は、その言葉で救われた思いがしました。
結婚してから一度もセックスしないまま子供だけ授かりましたが、子供に対する愛情は普通の夫婦と何も変わりません。
今思えば、兄の子を預かることになったのも、我が子に巡り会うための運命のようにすら思えます。
ずっとずっと、授かった我が子を大事に育てていこうと思っています。