◎色気のないあたし
うーん、独身時代はよく「色気がない」って言われました。
本当にしょっちゅう言われました。
ルックスは自分でも悪くないほうだって思ってるんですよ。
今でも、ほら、けっこうイケてるでしょ?
体の線だって、まだまだ捨てたもんじゃないし。ね?
でもぜんぜんモテなくて、友だちから、「エミちゃんは色気がないからなあ」と言われました。(スズキエミっていうのを、いちおう仮の名前としておきますね。)
女友だちばかりじゃなく、男友だちからもそう言われました。
あ、あたし、けっこう男友だち、多いんですよ。
男女意識せず、フランクに付きあえるって評判なんですよ。
男に知り合いとか友だちは多いんですけど、彼氏はできない。
なんて言うか、男性と知り合いになって、ドキドキときめく関係になる前に、友だちになってしまうんです。
カレシ・カノジョじゃなくて、お前・俺みたいな。
そこらが色気がないと言われるところなんでしょうかね。
でも自分では全然危機意識なんてなくて、彼氏なんてそのうち自然にできて、自然に処女ともおさらば、なんてふうに思ってたんです。
そうして、高校も大学も浮いた話はなく、OLになってもそんな話はなく、気がついたら25歳になっていました。
◎あせったわけではないけれど
さすがに、もしかしたらまずいのかなあ、と思いました。
25歳の処女。
ちょっと重いかもしれない。
この先好きな人ができて、あたしが処女だと知ったら、引くんじゃないかな。
男友達に訊いてみたら、こんなふうに言われました。
「そんなことないよ。スズキのことをまじめに考えてくれる男なら、気にしないと思う。もし、そこのところでつべこべ言う男だったら、そんなのは相手にしないほうがいいよ」
そのときはお酒が入っていたので、つい、こんなことも訊いてみました。
「女に慣れた人に初体験させてもらうっていうのはどう?」
「やめろよ。そりゃ、どうしてもって言うなら、ヤリチン男に知り合いはいるけどさ。でも、スズキにはそういうの、してほしくないな」
「ふーん、あんたがそんなこと言う? あんた、確か、フーゾクで筆おろししたんじゃなかったけ?」
あたしがそう言ったら、その男友だちはむせてました。
あははは、そんなことを口にするあたりが、色気がないってことなんでしょうね。
◎出会い
そんなあるとき、あたしの職場に、関連会社から男性がひとり入って来ました。
業務応援のために、1年間働いてもらうのです。
第一印象は、頼りない男、でした。
ひょろひょろっとした体形で、本当にもやしみたい。
歳はあたしよりひとつ上の26歳。
でも、全然成熟していない子供っぽい顔で、あたしより年下に見えました。
セックスアピール度ゼロ。
名前を仮にサトウカズオとしておきましょう。
彼の教育係をまかされたのはあたしでした。
指導してみると、とてもまじめだし、そこそこ仕事はできるし、人柄もよいということはわかりました。
でも彼氏にするには問題外。
職場の女子で、彼を男として見る人はいませんでした。
よくいるでしょう?
一生「いい人」のまま終わる男。
サトウはそんな人でした。
あたしはサトウを妹を見るような気持ちで見ていました。弟、じゃないですよ。妹。
だって、サトウ、全然男って感じしなかったから。
だから逆に油断があったのかなあ。
あるときいっしょに食事をして――。
あ、あたし、男友だち多いって言ったでしょ。
知り合ってすぐの男性と気楽に食事したり、って、けっこうするんですよ。
とにかく、いわば教え子のサトウと食事をしたんです。
そしたらなんかの話のはずみで、処女と童貞で力を合わせて卒業しましょう、ということになったんです。
ええ、サトウもそのときは童貞でした。
◎処女と童貞でラブホへ行く
あたしたちは話の勢いのまま、タクシーに乗ってラブホテルへ直行しました。
もちろん、あたしもサトウもそんなところへ来たことはない。
とまどいながら空いている部屋を選び、入ったものの、どうしてよいかわからない。
「とりあえず、お風呂にはいりましょうか」
「お、お先にどうぞ」
言われてお風呂に入ったら、なんと外からスケスケに見える。
わあ、本当にこんなところへ来ちゃったんだ、と思いましたね。
次いでサトウもお風呂に入って、ふたりして付属の館内着姿。
大きなパンツとガウンです。
本当にぎこちなく抱きあって、キスしました。
そしたらサトウが震えているんです。
「どうしたの? もしかして、サトウ、キスも初めて?」
「……はい」
消え入りそうな声でそう答えました。
いやあ、これは大変なことになってしまった。
本当にできるのなかあ、と心配しました。
でも、ここまで来たんだから、とキスを続行しました。
お互いの服を脱がし合って、どちらも裸になりました。
サトウの下腹部でアレが元気になっていました。
「わあ、これが例のやつ? へええ、おもしろーい」
あたしはしげしげとそこを見物し、指でつんつんと突いたりしました。
そしたら、サトウがいきなり凶暴になっちゃって、
「ずるいです。スズキさんのも見せてください」
と、あたしを押し倒して、脚を開こうとするじゃありませんか。
「いやっ、ちょっと、タンマ。だめ。きれいなもんじゃないの。見ないで」
抵抗するもむなしく、ありありと見られてしまって……。
そのうちお互いだんだんと大胆になってきて、悪戦苦闘はしたんですが、なんとかかんとか性交にいたりました。
サトウは挿入するなり果てましたけどね。
とたんに、彼が、「あーっ」と叫んだんです。
「どうしたの?」
「コンドームつけるの、忘れてました」
あたしたち、あぜんとして顔を見合わせました。
セックスするのに必死で、そういうの、すっかり頭から消えていたんです。
でも、まあしかたがないか、と思いました。
できたらできたで、また考えればいいや、と。
◎その後
そしたら、案の定、あたしは妊娠しました。
で、サトウとデキ婚して、今にいたっているというわけ。
子供も産まれ、彼はとってもいいパパで旦那よ。
夫婦生活のほうは、まあ、ご想像におまかせします。